事件報道と忘却の繰り返し、捜査機関には職能の問題、高橋まつりさんの死も過去の問題へ、新聞社と広告代理店が占めるタブーの領域
博報堂事件の取材を始めてまもなく1年になる。最初は、アスカコーポレーションと博報堂の間で起きた係争のうち、折込広告の業務をめぐるトラブルを取材し、その後、同社から入手した多量の資料を精査して、テレビCMの「中抜き」問題、視聴率の改ざん問題、通販誌制作の水増し請求などを取材・記事化した。
事件全体の構図は、次の記事で説明している。
■【解説】奇怪な後付け見積書が多量に、博報堂事件の構図はどうなっているのか?
その後、博報堂が省庁から請け負っているPR業務を取材するようになった。これはまったくの偶然の成り行きだ。わたしは20年来、「押し紙」問題など新聞に関する諸問題を取材してきた関係で、定期的に公共広告の実態を調査してきたのだが、内閣府が博報堂に依頼したPR業務の中に、検証を必要とする疑惑が見つかったのが糸口である。
その際、アスカコーポレーションの取材で得た知識が役に立ったことはいうまでもない。たとえば博報堂の共通した特徴として、後付けで多額の金銭を請求する手口がある。その極端な例が、内閣府と博報堂の取り引きでも見られた。
以下に示すのは、契約額と実際の(請求額)の対比である。
2012年度 約3980万円(約14億700万円)
2013年度 約4600万円(約11億900万円)
2014年度 約6670万円(約17億6300万円)
2015年度 約7600万円(約20億3800万円)
内閣府に対して情報公開請求、「博報堂グループに支払った補助金等の総額、売買、貸借、請負その他の契約の総額」
内閣府に対して筆者は、6日、内閣府が博報堂グループに支払った補助金等の総額、売買、貸借、請負その他の契約の総額の開示を請求した。これは官庁の管理職員が退官後に民間に再就職した場合、その官庁と就職先との取り引きの詳細を明確にすることを定めた国家公務員法106条の27に基づいたものである。
昨年末、読者からの通報で内閣府のナンバー2にあたる元審議官・阪本和道氏が博報堂に再就職していることが判明したために、今回の情報公開請求に至った。請求内容は次の通りである。
お詫びと訂正、記事の一部削除のお知らせ
行政事業レビューシートの金額と請求額がかい離していると報じたメディア黒書の記述を訂正し、関係者に謝罪する。この疑惑について、内閣府と博報堂に質問状を提出したところ、内閣府から回答があった。
12月31日付けのメディア黒書で筆者は、次のように記載した。
内閣府から天下った阪本和道氏と博報堂の関係、検証の道具としての国家公務員法第106条の27
内閣府の元審議官・阪本和道氏は博報堂に再就職(広義の天下り)している事は既報したとおりである。読者は、省庁から民間企業へ再就職した場合、国家公務員法を根拠としたいくつかの情報開示義務があることをご存じだろうか。第106条の27を紹介しよう。
平成25年度に博報堂が8回の広告効果測定調査やマーケティング調査、自社の業務を自社が国費で調査対象とした事例も
内閣府に対する博報堂からの請求書(平成25年度分)を検証したところ、
新聞の紙面広告を対象とした広告効果測定調査やマーケティング調査の名目
で、8回の請求が行われていたことが分かった。金額は、いずれも黒く塗りつぶされ、隠蔽されている。
8回の調査対象になったものは、いずれも内閣府がスポンサーになった広告で、広告のテーマごとに、請求が起こされている。テーマは次の通りである。
2017年の電通と博報堂、それぞれのアキレス腱
昨年、電通と博報堂の業務実態が社会問題としてクローズアップされた。広告依存型のビジネスモデルが定着している日本では、大手広告代理店の批判は、かつてはタブーだった。しかし、インターネットの台頭で変化の兆しが現れてきた。
年頭にあたり、元博報堂の社員で、作家の本間龍氏に、これら2社が内包する問題を総括してもらった。
執筆者:本間龍(作家)
◇電通タブーの終わり
2017年が明けた。昨年は12月28日に電通の石井社長が突然辞任を発表し、昨年後半から広告業界だけでなく日本中を揺るがせた「電通問題」に一つの区切りがついた形だ。
しかし、東京労働局はまだ捜査を続行しており、数名の幹部社員を書類送検する可能性があるという。電通としては社長の首というジョーカーを切ったことで何とか終息を図りたいのだろうが、実は一連の電通事件はこれからが正念場を迎えるので、年初に整理して示しておきたい。
多くの国民にとって「電通事件」とは新入社員自殺事件に端を発した電通の労務管理問題に映っているかも知れないが、それはほんの一面に過ぎない。社員の命すら軽んじ、儲けるためには不正をも是としながら、圧倒的なシェアを背景にあらゆるメディアや下請け企業に対して傲慢で高圧的な態度をとり続けてきた企業体質こそが真の問題であり、今年はさらにそれらが白日の下に晒される年になるだろう。これから明らかになる、もしくは問題になるであろう電通案件はこれだけある。
A 社員自殺事件の責任問題、残業代未払いに関する追送検
B ネット関連業務における巨額不正請求の実態解明
C オリンピック招致における裏金疑惑
D 書類送検を受けての官業務、とりわけオリンピック関連業務の指名停止の可能性
博報堂事件の総括、取材対象が民間のアスカから省庁へ急拡大、内閣府ナンバー2の天下りも判明
◇博報堂事件の第1ステージ
◇テレビCMの「中抜き疑惑」
◇放送確認書の偽造
◇博報堂事件の第2ステージ
◇行政事業レビューシート
◇全省庁に対して情報公開の開示請求
◇通信社OBらの支援
◇報道の広がり
◇戸田裕一社長名で巨額請求を繰り返す
この一年、わたしは博報堂がかかわった事件と向き合った。
その糸口は2月に1本の電話を受けたことだった。化粧品などの通販会社・アスカコーポレーション(本社・福岡市)からの電話で、折込広告の水増し被害を受けた疑いがあるので、資料を検証して、アドバイスをもらえないかという申し入れだった。
断る理由はないので引き受けた。折込広告の詐欺は、わたし自身が取り組んできたテーマである。
数日後、アスカから郵送されてきた資料を精査したところ、確かにアスカが折込詐欺の被害を受けていた可能性があることが分かった。たとえば東京・町田市の新聞のABC部数が約13万部しかないのに、15万枚の折込広告が見積もられていた。新聞購読者にもれなく折込広告を配布しても、13万枚あれば十分で、2万枚が過剰になる計算になる。
もっとも、なにか別の目的で2万枚を余分に印刷したというのであれば、別問題だが。「折込詐欺」は水面下の社会問題になっているので、わたしは取材することにした。
たまたまこの時期にアスカが本拠地としている福岡市近郊の久留米市へ取材にいく予定があった。メディア黒書でも取り上げている佐賀新聞の「押し紙」裁判の取材である。
この機会を利用して、わたしは福岡市のアスカを訪問した。情報の提供会社に直接あって、相手が信頼できる企業かどうかを確かめておく必要があったからだ。
アスカの社員から直接事情を聞いてみると、折込広告に関する疑惑以外にも、テレビCMの「中抜き」疑惑や、嘘の視聴率を提示してCMの口頭契約を結ばされた疑惑など、問題が山積していることが分かった。
係争の相手が博報堂であることも意外だった。紳士的なイメージがあったからだ。ただ、大手広告代理店に対するタブーがあることも知っていた。日本のメディア企業の大半は、広告依存型のビジネスモデルなので、広告代理店を抜きにすると経営が成り立たなくなるからだ。
逆説的に見れば、ジャーナリズムの光があたらない業界は、内部が腐敗していることが多い。タブーの領域こそが最高の取材対象になるのだ。この矛盾がジャーナリズムの魅力でもある。
そこでわたしはアスカに対して、博報堂との過去の取引に関する全資料を提供してくれるようにお願いした。2週間後に、段ボールいっぱいの資料が送られてきた。全資料ではないが、アスカが疑惑を抱いている取引に関する記録である。こうして博報堂事件の第1ステージの取材が始まったのだ。大手広告代理店に対するタブーに挑戦することになったのだ。
ちなみに博報堂は、完全にわたしの取材を拒否した。
博報堂へ天下った阪本和道氏は元内閣府のナンバー2だった
内閣府から博報堂に再就職(広義の天下り)した阪本和道氏について、詳しいことが分かったので紹介しておこう。この人物は、内閣府の元審議官である。
審議官について、ウィキペディアは次のように説明している。
内閣府の官僚においては内閣府事務次官に次いでナンバー2のポストであり、いわゆる次官級審議官職の一つ。現在の定員は2人。
経歴は次のようになっている。
内閣府の阪本和道・元審議官が博報堂へ天下り
メディア黒書では、博報堂が2012年ごろから内閣府へ送付してきた不自然な請求書について調査しているが、このほど阪本和道(元内閣府審議官)が退官後の2016年に博報堂に再就職(広義の天下り)していることが分かった。
電通、書類送検で石井社長が遂に引責辞任
執筆者:本間龍(作家)
28日、東京労働局は会社としての電通と、亡くなった高橋まつりさんの元上司と思われる社員一名を書類送検した。捜査は越年するとみられていたが、11月7日の強制捜査から僅か一ヶ月半という極めて異例の早さで進展した。
記者会見した労働局幹部は「一刻も早くやらなければと全力を挙げた。これで終わりではなく、捜査を続行して他にも送検すべき対象がいれば今後も訴追する。12月25日の高橋さんの命日も意識した」と語った。
これを受け電通は19時から記者会見を開き、石井直社長の1月引責辞任を発表した。石井氏は「高橋さんが亡くなったことは慚愧に耐えない。不退転の決意で改革を実行する」などと沈痛な表情で語った。
この記者会見を私はネット中継を見ていたのだが、実に不思議な光景だった。電通側登壇者は石井社長、中本副社長、越智人事局長の3名で、相当大きな会場なのに、集まったメディアは20人に満たないほどに見えた。まるで大きな体育館で、僅かな出席者が一カ所に集まって集会を開いているかのようだった。
電通のブラック企業大賞受賞をNHKが異例の報道、民放との際立つ差
執筆者:本間龍(作家)
12月23日、今年のブラック企業大賞に電通が選定された。ブラック企業大賞とは、過労死問題に取り組む弁護士やNPO、ジャーナリストなどが中心となって、その年に労務問題等で話題になった企業を選ぶもので、今年で5回目となる。初回は東電、昨年はセブンイレブンジャパンが大賞に選ばれていた。
毎年ネットなどではそれなりに話題になっていたのだが、大手メディアはあまり報じていなかった。ところが今年はなんとNHKが速報を流し、さらに夜7時のニュースでも大々的に取り上げるという異例の展開となった。ブラック企業大賞実行委員会の弁護士らの間でも驚きの声が上がっている。
NHKが昼12時、夜7時のニュースで取り上げる意味は非常に大きい。注目度が非常に大きいだけでなく、そこで扱われたネタは、その後の時間帯のニュースや、様々な番組で繰り返し取り上げられるからだ。
しかもそれらのほとんど全てが全国放送だから、その拡散力は民放の比ではない。さらにNHKは25日、自殺した高橋まつりさんの母親の手記も夜7時のニュース等で大々的に報じた。この原稿を書いている26日夕方のニュース番組でもコーナーを作って報じている。イメージ悪化に歯止めをかけたい電通にとっては大打撃であり、NHKがここまで一企業に関するニュースを継続して報道するのは極めて異例だ。
博報堂が内閣府に対して起こした請求書の4年分を入手、いずれも契約額を大幅に超過、見積書は存在せず
不透明な取引としてメディア黒書で報じてきた内閣府と博報堂のプロジェクト「政府広報ブランドコンセプトに基づく個別広報テーマの広告実施業務等」。
このプロジェクトに関する情報開示資料は、平成27年度分しか筆者の手もとになかったが、このほど、他年度の4年分を入手した。それを検証したところ、複数年度に渡って同じ疑惑があることがわかった。
今回入手したのは、平成23年度分(2011年度分)から平成26年度分(2014年度分)である。平成27年度分(2015年度分)については、すでに8月に入手している。
平成27年度分で不可解な点が発見されたので、過去にさかのぼって同じプロジェクトの関係資料の開示を求めたのである。次に紹介するのは、平成24年度、平成25年度、それに平成26年度の資料である。以下のPDFは、それぞれ契約書・請求書の順になっている。見積書はもともと存在しない。
■平成24年度(契約書・請求書)--準備中
■平成26年度(契約書・請求書)--準備中
内閣府が釈明、博報堂との業務契約書の解釈について、6700万円は「戦略の構想」費
12月12日付けのウエブサイト「ビジネスジャーナル」に掲載されたわたしが執筆した記事に対して、内閣府からわたしに釈明があった。内閣府が問題にした記事のタイトルは「内閣府、博報堂へのCM発注額を「黒塗り」…発注額と契約金額に30倍の乖離、見積書なし」。
この中で内閣府が釈明したのは、次の記述の赤字箇所である。
ちなみに契約書によると、業務内容は「政府広報コミュニケーション戦略の構築」や新聞広告、テレビCM、バーナー広告の制作・掲載などである。これらのPR活動の費用として約6701万円という額を契約していながら、実際の請求は20億円を超えているのだ。
確かに請求額が契約額を上回ることはある。しかし、ここで指摘しているケースのように、契約額の約30倍にも達しているケースは稀である。かりに契約価格を請求額が上回るのであれば、受注元(今回は博報堂)が契約外の業務を行うに先立って見積書を発行して、内閣府の承諾を得るのが一般的である。