1. 「押し紙」の実態

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2022年12月26日 (月曜日)

毎日新聞社長室へ公開質問状、「押し紙」問題についての見解、販売店の改廃事件で刑事事件にするという脅し

企業には広報部とか、広報室と呼ばれる部門がある。筆者のようなルポライターが、記事を公表するにあたって、取材対象にした企業から事実関係や見解などを聞き出す時にコンタクトを取る窓口である。新聞社の場合は、ある程度の記者経験を積んだ者が広報の任務に就いているようだ。

今月に入って、兵庫県姫路市で毎日新聞・販売店の改廃にともなう事件が起きた。店主が、新聞の仕入れ代金などで累積した約3916万円の未払い金の支払いを履行できずに、廃業に追い込まれたのである。公式には双方の合意による取引の終了である。

請求は、さやか法律事務所(大阪市)の里井義昇弁護士が販売店主に内容証明で催告書を送付するかたちで行われた。里井弁護士は、催告書の中で、店主が積み立てた信認金(約80万円)を未払い金から相殺することや、12月分の読者からの新聞購読料は毎日新聞社のものであるから、店主が集金してはいけない旨も通知していた。

集金した場合は、「株式会社毎日新聞社としましても、民事上のみならず、それにとどまらない刑事上のものを含めた法的対応を講ずることを検討せざるを得ませんので、たとえ購読者の方より申し出がありましても、一切収受等することなく、後任の販売店主への支払いをと伝えられるようご留意ください」と述べている。

かりに請求金額に「押し紙」による代金が含まれていれば、実に厚かましい話である。

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2022年12月23日 (金曜日)

武富士から新聞社へ、「押し紙」代金の取り立て、問われる新聞人の人権意識

新聞販売店の強制改廃が後を絶たない。新聞社は、販売店の廃業に際して、店主に対し新聞の卸代金の未払い金を請求する。しかし、それには「押し紙」が含まれているので、請求額は尋常ではない。3000万円とか4000万円のレベルになることもある。ある店主に尋ねてみた。

「廃業後にどうやって未払い金を返済するのですか?」

「他の販売店で従業員として雇用してもらい、月に5万円とか7万円を新聞社に入金している人がかなりいます」

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2022年12月20日 (火曜日)

「押し紙」を廃止した新聞社、新潟日報のケース

中央紙が「押し紙」政策に徹していることは周知の事実になっている。ブロック紙や地方紙もやはり「押し紙」を柱としたビジネスモデルを導入している社が多いが、少数の例外もある。たとえば熊本日日新聞である。同社は、販売店に搬入する予備紙は、搬入部数の1・5%に固定している。その結果、残紙が店舗にあふれる状況はない。

熊本日日新聞の他に、わたしが調査した限りでは、新潟日報も「押し紙」政策を廃止した時期が確認できる。現在も正常な新聞販売政策を実践しているかどうかは不明だが、少なくとも過去に「押し紙」政策を廃止した時期がある

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2022年12月16日 (金曜日)

毎日新聞・網干大津勝原店の改廃、同店の内部資料を入手、里井義昇弁護士が「3915万円を支払え」と催告

網干大津勝原店(兵庫県姫路市)の内部資料を入手した。その中に2022年4月9日付けの「通知兼催告書」と題する内容証明郵便がある。執筆者は、毎日新聞社の里井義昇弁護士である。

「通知兼催告書」の中で里井弁護士は、店主が未払いにしている代金として、約3915万円を明記した上で、「直ちに株式会社毎日新聞社の指定する下記代理人預かり口座に振り込まれるよう催促いたします」記している。

この約3915万円の請求に、かりに「押し紙」代金が含まれているとすれば、請求書を送り付ける行為そのものに問題があるのではないか。里井弁護士は、長年にわたって毎日新聞社の代理人を務めているわけだから、「押し紙」問題を認識していないはずがない。しかも、店主に支払い能力がないことも知っている可能性が高い。

『弁護士職務基本規定』の第1条は、弁護士の使命について、次のように述べている。

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2022年12月16日 (金曜日)

毎日新聞が新聞の供給をストップ、網干大津勝原販売店の改廃事件、「押し紙」は新聞記者が報じるべき問題

毎日新聞社は、15日、網干大津勝原販売店(兵庫県姫路市)に対する新聞の供給をストップした。店主からの連絡によると、新聞配達員らは新聞の到着を待っていたが、新聞は供給されなかった。同店で扱っている産経新聞は通常通りに供給された。

毎日新聞社は、新たに設けた販売店から新聞を配達したが、店主によると、十分に新聞購読者の住所を把握できていなかったために、新聞が届かないケースが発生して、自店へ苦情の電話が殺到したという。

既報したように、この事件について筆者は、毎日新聞東京本社に事情を説明するように書面で質問状を送付していた。回答は社長室から14日の夜に、メールに添付したPDF書面で到着した。次に引用するのが、回答の全文である。

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2022年12月14日 (水曜日)

毎日新聞の網干大津勝原販売店の店主からメディア黒書へ相談、15日に新聞の供給が止まる可能性も?社会部へも情報提供

毎日新聞の網干大津勝原販売店の店主から、残紙の負担で新聞の卸代金の入金が困難になり、強制改廃されるリスクが高まっているとの相談を受けた。15日にも、毎日新聞が新聞の供給をストップする可能性がある。

この件に関して毎日新聞側の主張が聴取できていないので、断定的なことは言えないが、店主の報告が事実だとすれば、販売網を整備する政策の一端である可能性が高い。今後、新聞社の系統を問わず他の販売店にも起こり得る問題である。

念のために大阪本社の販売局に事情を問い合わせたが、担当者と話すことはできなかった。要件を伝えるためにFAX番号を尋ねたところ、同社の社会部のFAXが提示された。

毎日新聞東京本社の広報担当者に次の問い合わせメールを送付した。大阪本社の社会部にも、「CC」のかたちで同じ問い合わせを送った。残紙問題は、本来、新聞記者が報じるべき重大な問題なので、どう対処するかがみものだ。

わたしからの問い合わせは次の通りである。回答が到着次第に、メディア黒書で公表する。

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2022年12月02日 (金曜日)

西日本新聞に対する「押し紙」裁判の訴状を公開、20年の「押し紙」追及と研究の果実、注目される「債務不履行」についての審理

既報したように西日本新聞の元店主が、11月14日に福岡地裁へ「押し紙」裁判の訴状を提出した。代理人を務めるのは、「押し紙」弁護団(江上武幸弁護士ら)である。

本稿で、訴状の中身を紹介しよう。結論を先に言えば、弁護団の20年を超える「押し紙」追及と研究の成果を結集した訴状になっている。訴状の全文とそれに関連する資料は、次のPDFからダウンロードできる。

訴状

「押し紙」一覧

資料(「押し紙」の定義に関する法律と規則)

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西日本新聞を提訴、「押し紙」裁判に新しい流れ、「押し紙」の正確な定義をめぐる議論と展望

「押し紙」裁判に新しい流れが生まれ始めている。半世紀に及んだこの問題に解決の糸口が現れてきた。

11月14日、西日本新聞(福岡県)の元店主が、「押し紙」で損害を被ったとして約5700万円の損害賠償を求める裁判を福岡地裁へ起こした。訴状によると元店主は、2005年から2018年までの間に3店の販売店を経営した。「押し紙」が最も多い時期には、実配部数(実際に配達する部数)が約1300部しかないのに、約1800部の新聞が搬入されていた。

他の「押し紙」裁判で明らかなった「押し紙」の実態と比較すると、この販売店の「押し紙」率は低いが、それでも販売店経営を圧迫していた。

この裁判には、どのような特徴があるのだろうか?

◆多発する「押し紙」裁判、読売3件・西日本2件・日経1件

「押し紙」裁判は、今世紀に入ることから断続的に提起されてきた。しかし、新聞社の勝率が圧倒的に高い。裁判所が、新聞社の「押し紙」政策の存在を認定した例は、わたしが知る限りでは過去に3例しかない。2007年の読売新聞、2011年の山陽新聞、2020年の佐賀新聞である。

※2007年の読売新聞の裁判は、「押し紙」が争点になったが、地位保全裁判である。

現在、わたしが取材している「押し紙」裁判は、新たに提起された西日本新聞のケースを含めて次の6件である。

・読売新聞・東京本社VS販売店(東京高裁)
・読売新聞・大阪本社VS販売店(大阪地裁)
・読売新聞・西部本社VS販売店(福岡地裁)
・日経新聞・大阪本社VS販売店(大阪高裁)
・西日本新聞VS販売店1(福岡地裁)
・西日本新聞VS販売店2(福岡地裁)

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2022年11月15日 (火曜日)

押し紙弁護団が報告書を公開、西日本新聞を被告とする「押し紙」裁判で、報道自粛の背景に「押し紙」問題

押し紙弁護団(江上武幸弁護士、他)は、14日に提訴した西日本新聞の「押し紙」裁判の提起に続いて、最新の「押し紙」裁判についての報告書を公表した。全文は、次の通りである。

 

「西日本新聞押し紙訴訟」追加提訴のご報告

2022年(令和4年)11月15日

福岡・佐賀押し紙訴訟弁護団
               弁護士 江上武幸(文責)

この度、当弁護団は、佐賀県の西日本新聞販売店元経営の●氏を原告として5718万円(弁護士費用を含む)の押し紙仕入代金の返還を求める裁判を福岡地方裁判所に提訴しました。当弁護団は他にも西日本新聞社・読売新聞西部本社・読売新聞大阪本社を被告とする裁判をかかえており、いずれも最終局面を迎えています。全国的には、他の弁護士による訴訟が各地で提訴されており、今後も同様の裁判が続くことが予想されます。

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2022年11月14日 (月曜日)

【臨時ニュース】西日本新聞を提訴、「押し紙」による被害5700万円の損害賠償

【臨時ニュース】

西日本新聞の元店主が、「押し紙」で被害を受けたとして14日、約5700万円の損害賠償を求める裁判を福岡地裁へ起こした。「押し紙」率は、最大で搬入部数の約25%程度。10%を下回っている時期もあり、相対的にはこれまで提起された「押し紙」裁判の例よりも低い。

原告代理人は、「押し紙」問題に取り組んでいる福岡の「押し紙」弁護団(江上武幸弁護士)が担当する。同弁護団は、佐賀新聞の「押し紙」裁判(2020年5月15日判決)では、佐賀新聞による独禁法違反を認定させる判決を勝ち取っている。

詳細は後日。

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日本経済新聞の「押し紙」裁判と今後の課題── 露呈した公権力機関による新聞社保護の実態 

2022年7月時点における全国の朝刊発行部数(一般紙)は2755万部(ABC部数)である。このうちの20%が残紙とすれば、551万部が配達されることなく無駄に廃棄されていることになる。30%が残紙とすれば、827万部が廃棄されていることになる。

1日の廃棄量がこの規模であるから、ひと月にすれば、おおよそ1億6530万部から、2億4810万部が廃棄されていることになる。年間に試算すると天文学的な数字になる。「押し紙」は重大な環境問題でもある。

しかし、裁判所も公正取引委員会も、いまだに「押し紙」問題に抜本的なメスを入れようとはしない。新聞社の「押し紙」政策を保護していると言っても過言ではない。新聞社を公権力機関の歯車として取り込むことによりメディアコントロールが可能になるから、「押し紙」を黙認する政策を取っている可能性が高い。

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2022年10月21日 (金曜日)

朝日新聞が399万部に、年間で62万部の減部数、2022年9月度のABC部数、

日本ABC協会が公表した2022年9月度のABC部数によると、朝日新聞は399万部となり、400万部の大台を割り込んだ。この1年間で62万部を失った。かつて読売「1000万部」、朝日「800万部」と言われていたが、「紙新聞の時代」の終わりを感じさせる。新聞が巨大ビジネスだった時代は幕を閉じた。今後、新聞産業はさらに縮小しそうだ。

一方、朝日のライバル紙である読売新聞のABC部数は667万部だった。前年同月比較で37万部減。さらに毎日新聞のABC部数は187万部、産経新聞は100万部、日経新聞は170万部だった。いずれの新聞も部数減が止まらない。

中央紙(朝日、読売、毎日、産経、日経)がこの1年間に減らした部数は、総計で134万部になる。これは東京新聞(38万部)が3.5社が消えたに等しい。

ただ、ABC部数には「押し紙」が含まれており、ABC部数の減少は、単に「押し紙」を整理した結果である可能性もある。「押し紙」の整理を進めれば、それに応じてABC部数も減る。逆に「押し紙」の整理をしなければ、ABC部数の減数幅も小さい。

9月のABC部数は次の通りである。

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2022年10月10日 (月曜日)

「押し紙」で生じた不正な資金・35年で32兆6200億、公取委が新聞社の犯罪を「泳がせる」背景に強い政治力、「世論誘導」という商品の需要と売買

2022年7月8日、安倍元首相が旧統一教会に恨みを抱く人物から狙撃されて命を落とした。この事件をきっかけとして、旧統一教会の高額献金や霊感商法の問題などが浮上した。被害額は、昨年までの35年間で総額1237億円になるという。(全国霊感商法対策弁護士連絡会」)

これに対して、新聞の「押し紙」による被害がどの程度に上がっているのか、読者は想像できるだろうか。簡単な試算を紹介しよう。

日本全国の一般日刊紙の発行部数は、2021年度の日本新聞協会による統計によると約2590万部である。このうちの20%にあたる518万部が「押し紙」と想定し、新聞1部の卸卸価格を1500円(月額)と想定すると、被害額は77億7000万円(月額)になる。これを1年に換算すると、約932億円になる。

旧統一教会による被害額が35年間で1237億円であるから、「押し紙」による被害額と比較するためには、1年間の「押し紙」の被害額932億円を35倍すれば、その数値が明らかになる。32兆6200億円である。

しかも、この試算は誇張を避けるために、「朝夕セット版」を外して、低く見積もった数値なのである。

公正取引委員会や裁判所などの公権力機関が正常に機能していれば、合法的に取り締まるレベルの問題であるにもかかわらず彼らは延々と問題を放置してきたのである。背後に強い政治力が働いている可能性が高い。

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